大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和30年(タ)14号 判決

主文

一、原告本田ミヨと被告本田忠治とを離婚する。

二、原被告間の長男彰憲の親権者を原告と定め、二男博美の親権者を被告と定める。

三、被告は原告に対し金三万円およびこれに対する昭和三十年十月八日以降その完済まで年五分の割合の金員を支払うべし。

四、被告は原告に対し別紙目録(省略)記載の物件を引渡すべし。

五、原告のその他の請求を棄却する。

六、訴訟費用は原告ならびに被告各二分の一ずつの負担とする。

七、この判決中第三項については原告は金一万円の担保を供すれば仮に執行することができる。第四項については原告は仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

第一、離婚の請求について。

一、証人山岸清治の証言と原被告各本人尋問の結果を総合すれば、原告と被告が昭和二十三年十月五日山岸清治夫妻の媒酌で事実上婚姻、被告方に同棲し、同年十二月八日婚姻届出をしたこと、双方の間に昭和二十四年十二月三日長男彰憲、同二十八年六月二十二日二男博美が出生したこと(以上の各日時については当事者間に争ないので認めることができる。)、原告は当三十一歳、中流農家に生れ、被告と婚姻前他の男と婚姻したことがあるが離婚したこと、被告は当四十歳、田畑二町歩以上(内一町余自作)を所有し農業を営む者で、原告と婚姻前山岸キイと婚姻し、その間に二子がある(内一人は清治方に預けている。)が、キイは死別したこと、原被告の媒酌人山岸清治夫妻は右キイの父母に当ること、を認めることができる。

二、証人山岸善治郎、同織田信男、同織田勇八の各証言と原告本人尋問の結果を総合すれば、

(イ)  原被告は婚姻当初は円満であつたが、一年近くたつて愛情がうすれ、被告は、媒酌人ではあるが同時に先妻の親でもある前記山岸清治方にしばしば出入りして原告に対する酷評をして不満を訴えたり、先妻の写真を額に入れて掲げたり、また被告の母と共に原告の細かな行動にも難くせをつけたり、お前のような者と結婚したのは失敗だつたなどと当つたり、原告が妊娠中や産後(あるいは妊娠中絶後)無理な堆肥積み等の労働をさせたりなど、とかく後妻としての原告の気持にひびを入れるような冷酷な態度で処遇して来たこと。

(ロ)  原告はこれをつらく思つて三回位実家に帰つたことがあつたがその都度実家にたしなめられて復帰し、がまんもしてとにかく被告と婚姻生活を続けていたが、その実際は夫婦であつてなきがごとくであり、昭和三十年六月四日原告は被告と一寸したいさかいから、長男彰憲をつれ、被告方を出て実家に立ち帰つたこと、

(ハ)  その後被告から離婚の意思を表明したが、原告は子供のためもあり今一度復帰すべく、同年七月兄信男を通じて陳謝しその旨申入をしたけれども、被告は受け入れず、離婚の意思をひるがえさなかつたこと、

(ニ)  そこで原告は納豆製造所で働いてわずかの給料をとり、実家(兄信男方)に世話になりながら、彰憲を養育して暮していること、

を認めることができる。以上の認定に反する証拠は採用しえない。

三、一方証人山岸清治、同本田伊三郎の各証言と被告本人尋問の結果を総合すれば、原告は農家の妻として日頃農業、家事、育児等に十分気を配らず、とかく活溌な働きができなかつたこと、また被告の母に対する扱いも冷かつたこと、被告はこれらを不満として山岸清治に訴えたものであること、二男博美は被告が養育し被告になついていること、被告は婚姻継続の意思のないことは今も変りないこと、が認められる。以上の認定に反する証拠は採用しえない。

四、原告はなお、(イ)被告は原告を牛馬同様に待遇し、酷使し、罵倒した。(ロ)被告は原告に妊娠中絶を強制して実行せしめた、(ハ)被告は原告との子と先妻との子との間に著しい差別待遇をした、等と主張するが、(イ)については前記二、で認定したところ以上の事実を認定しうる証拠はなく、証人山岸善治郎、同織田勇八、同織田信男の各証言および原告本人の供述中、右事実を肯定するかのような部分は、いずれもおおむね抽象的で結局証人の意見の範囲を出ないから採用しえない。(ロ)については、妊娠中絶三回に及んだことは被告も認めるところであるが、原告が被告の意思に反して強制してやらせたという前記証人善治郎、勇八、信男の各証言および原告本人の供述は、被告本人の供述とてらして、信用しえない。(ハ)について前記証人善治郎、信男の各証言および原告本人の供述中にはこれを肯定するかのような部分があるが、いずれもおおむね抽象的で、採用しえない。

五、そこで、原告は前記二、(ハ)記載の、原告の復帰申入を被告が拒絶したのは、悪意で原告を遺棄したものであると主張するが、原告は進んで被告方を出たものであり、当時両者の気持は完全に疎隔し、ついに被告は離婚の意思をもつに至つたので、右のような行動に出たのであつて、しかもその後わずか二カ月ほどして(その間調停があつて)原告の方から本訴が提起されたことを考え合わせると、通常の状態における同居義務、扶養義務の違反と同列に考えられないから、右の被告の行動をもつて原告を遺棄したものとはいえない。

六、しかし、前記各認定事実を総合すれば、原被告間の婚姻関係はすでに完全に破たんし、両者とも全く婚姻継続の意思がないのであつて、慰藉料の点さえ合意に至れば協議離婚もできるであろうと推察されるのである。このような情況においては、もはや婚姻を継続しがたい重大な事由があるものと認めるから、原告と被告を離婚すべきものとする。

七、前記認定事実のもとにおいては、原被告の長男彰憲の親権者を原告、二男博美の親権者を被告と定めるのを相当と認める。

第二、慰藉料の請求について。

前記認定事実を総合すれば、原被告の婚姻関係が破壊されたのは、結局は両者相互間の愛情の欠除によるというほかはないが、事ここに至つた主な原因は、被告が死別した先妻に未練をもち、これと比較して原告を低く評価し、後妻としての原告をいたわり指導することなく冷淡に終始するのみか、かえつて原告につらく当つたことにあるのであつて、被告は右各行動、ならびに婚姻関係破たんにより原告が受けたと認められる精神上の苦痛に対し慰藉料を支払うべきものと認める。そこでその額についてみると、本件の一切の事情を考え、特に(イ)被告の原告に対する前記個々の行動は比較的に消極的なもので、愛情の欠如から来る感情的な行為としては或る程度まではやむをえない場合もあり、進んで原告に対し決定的な打撃を与えるような特段の不法行為もなく、被告は昭和三十年七月までは離婚を考えていなかつたこと、(ロ)原告は後妻としてのひがみが強過ぎるきらいがあつて、婚姻継続につき積極的な熱意が不十分であると認められること、また農家の妻としての自覚、反省にいくぶん欠けるところがあること、等を考慮に入れると、慰藉料の額は金三万円をもつて相当と認める(もちろん本件で申立てていない財産分与は別である。)。従つて被告は原告に対し右金額とこれに対する、本件訴状が被告に送達された日の翌日たる昭和三十年十月八日以降その完済まで年五分の法定利率による遅延損害金を支払うべき義務がある。

第三、物件引渡の請求について。

この請求は本来人事訴訟手続法第七条の併合の要件を欠くが、本件ではその物件の所有権の帰属や引渡義務の存否についてほとんど争がなく、むしろ離婚に際しての財産の清算の一種として原告の特有財産の引渡を求めるものであると認められ、これを離婚請求と併合することにより何等の弊害もなく、むしろ迅速適正に解決ができるから、同法第十五条の趣旨を類推して、離婚の請求に併合したまま判決することにする。そこで別紙目録記載の物件中五、のコート三枚のうち一枚、二一、の寝間着綿五百匁のうち三百匁は被告は占有することを争うが、原告本人の供述によれば、被告はそれらを占有すること、ならびにそれらが原告の所有であること(内コート一枚は結納で贈与を受けて原告の所有となつたもの)が認められ、その他の物件はいずれも被告が占有すること、原告の所有であることは当事者間に争がない。そして被告が以上の物件を占有する権原については何の主張立証がないから、被告は原告に対し以上の物件を引渡す義務がある。

第四、そこで以上の限度で原告の請求を認容し、その他の請求を棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第九十二条により負担を定め、この判決中原告勝訴の部分については仮執行の宣言をするのを相当と認めて、主文の通り判決する。

(裁判官 小堀勇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例